風が運んできたもの

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良い匂いに顔を上げると『山猫軒』と書かれた洋食店。
店は扉が開かれるのを今か今かと待っている。
恐れはなかった。風が運んできたその匂いは私だけのもの。道行く人はその店に気付かず足を止めない。
私の為にだけ用意された店。入らないわけにはいくまい。
店の出す多くの注文に応え、テーブルに着く。ああ…良い匂いだ…
運ばれてきた料理。誰が持って来たかなんて気にならない。早く食べたい。その一心だった。
その料理は見事という他ない。美しく盛り付けられた料理はまさに芸術品。
だが食べるのがもったいないとは思わない。それは料理に対する冒とくだ。食べない事への言い訳だ。
美しい砂浜と同じだ。目にした瞬間、思わず駆け出したくなる。
美しい風景を体内に取り込むべく料理にかぶりつく。そして何が起ころうとも食事の手を止めなかった。
そうして私自身、腹の中に収められた後で気づく。あの料理はそういう風に出来ていたんだと。
公開:22/05/08 20:38

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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