神

　真夜中に腹痛で、寝ぼけたままトイレに座った。最初の波が過ぎ、さほど遠くない沖に第二波が見え隠れしているという間隙に、ペーパーホルダー直下の床が気にかかった。長さニ十センチ、直径五センチほどの黒い円柱状のものが転がっているのだ。「ペーパーホルダーの影？」と思うと、それはペーパーホルダーの影だった。「いや、カリントウかもしれない」と思うとそれはかりんとうに見えた。「ウンコ？」と思うと、臭かった。「？」と思っている間に第二波、そして第三波がきた。
　脂汗を流してそれらをやり過ごしたとき、真下にはグランドキャニオンが広がっていた。
「新種の両生類とかだったりして」と思うと、ヌメヌメした手足が蠢き、前後にパクリと真っ赤な口を開けたので「影・影」と念じると、それは再び影になった。
　それはどうやら、思ったものが実体化する影なのだ。
　私は「地球」とつぶやいて、トイレに水を流した。