記憶相場

早朝。とある進学塾。
「憶安忘高！準備！」職員は緊急授業招集を生徒に一斉配信した。
宿直の講師は消防士よろしく階下の教室へ滑り棒を伝い降下する。
カメラに向け授業は開始された。レンズの向う側には幾千の生徒が勉強を開始したはずである。鰻登りに増える閲覧数がソレを物語っていた。
２０８０年。実は人類全体で記憶と忘却を共有しており
誰かが１つ忘却すると、誰かが最低１つ記憶できるという相関関係が立証された。重要なのが１忘却に伴う記憶可能数が変動する点。
それは『記憶相場』として精緻化され学習方法を一変させた。
「ライバルはまだ夢の中だ。今１つでも多くの記憶を勝ち取れ！」講師は声高に黒板を叩いた。

「今回の要因は何？」右肩上がりの記憶チャートを職員達は眺める。
「恐らく超人気女優結婚の噂です」
「うわぁ。早く忘れたい過去だわ。記憶側は？」
「世界的クイズ王の死去で相当数の記憶枠が放出された様です」