巧みな猫車

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マンションのドアを開けると廊下に一輪車が置いてあった。建設工事で土砂を運ぶ手押し車。タイヤ一つに柄が二本、猫車とも呼ぶ。泥がついている。誰が置いて行ったのだろう、俺の部屋の前に。そのままにして会社に向かった。夕方に帰ると同じ場所に猫車はあった。隣の奥さんがドアから顔を出す。「いい一輪車ですね」とドアを閉めた。俺のものだと決めつけている。交番に相談すると私有地内なのでとあっさりと断られた。区役所粗大ゴミ係に聞くと料金が高すぎる。なぜ俺が払わなければ、と思い電話を切った。
次の日からも猫車は置いてある。週末に思い立って猫車を部屋に持ち入れた。風呂場で洗って泥を落とすとあまり古くない。金属板を磨いてきれいになった猫車をテレビ台に置いた。テレビがあまりに退屈なので処分しテレビのない生活をはじめたところだった。把手二本を上にして見応えがある。独特なフォーム、光沢感。当分、ここに置くことにしよう。
その他
公開:22/05/03 16:49

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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