スズメの訪問

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何かの音に目が覚めた。ふとベランダのほうを見るとスズメが一羽、柵に留まっていた。どうやら鳴き声で目が覚めたようだ。ベランダの柵にスズメが来るようになったのはいつからだろうか。
妻の「スズメ」が亡くなってもう1年が経とうとしていた。変わった名前の妻だった。名前だけじゃない。朝、彼女が私を起こすときは耳元でおはようと囁いてくる。優しいアラームだった。仕事で失敗して落ち込んで帰ってきた私に、彼女は慰めの言葉ではなく、「愛してる」とこれまた耳元で囁いてくる。
間違いなく私の心の支えであった彼女を、病気に奪われてしまった。
なぁスズメ。元気にしてるか。俺はあれからずっと会社の人から「顔が死んでるね」って言われてるよ。
チュンチュンチュンチュンチュンとベランダのスズメが鳴いた。アイシテルのサイン、ってか。
スズメはチュンと楽しげに鳴いて飛んでいった。
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公開:22/05/03 17:00
スズメ 夫婦

雪宮冬馬

日本生まれ日本育ち。年齢約20代。まだまだこれからの男です。
noteでもショートショート書いてます。
よろしくお願いします。

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