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さらさらと衣擦れのような雨音がして飛び起きた。建てつけの悪い窓を開けると闇に細い銀の糸が見え舌打ちする。この小さな島の雨は線で降る。糸の雨。昔からそうだった。少し肌寒い。軒先に吊るした寒暖計を見て慌てて支度にかかる。この気温ならきっと涼やかで軽い良質な雨糸が採取できた筈で、もう随分と降るのか多くの銀糸が泥にまみれていた。「くそっ」悪態をつき専用の細い四ッ股の熊手と幌をかけた桶を手に裸で外に出る。ふわふわとした大地を踏み締め雨の糸を頭上で熊手を操りからめとる。糸は切らず地面に落とさず、そして体に触れないよう桶に収める。商品価値を下げたくない。次第に雨は小雨になり糸が短くなると雨粒へ変わった。急いで下処理を済ませ出荷準備をする。雨が上がれば忽ち糸は切れごわごわとした糸屑になる。後で屋根に上り糸かきをしよう。俺が動けなくなったら、ここは切れた糸の積もる糸屑の島になるだろう。それも悪くはないが。
その他
公開:22/05/05 10:45

界岸線のひつじ(たそがれる猫の城)

猫だったりひつじだったり。
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