観察日記

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 実家に帰省し、一回り歳の違う兄の部屋を覗いてみた。むっとする熱気、日に焼けたポスター、男の子の存在感がまだ残っていた。小学生の頃のノートを見つけた。まりのかんさつにっき。
 私と一緒の名前だ。
 まりのよう虫は、まどの外のみかんの木の葉っぱのうらにたくさんいました。虫かごに入れると、まりのよう虫は元気に葉っぱを食べました。
 種類じゃなくて名前で呼ぶのは変な感じがする。
 もうすぐさなぎから赤ちゃんが出てきます。
 8月31日。ここで終わってる。白紙のページに赤く退色した写真が挟んであった。
 想像よりもはるかに大きい、握り拳ほどのさなぎから、大きな頭と五本の指の、人間の胎児みたいなものが羽化しようとしている。
 私は窓を開け、蜜柑の木から葉を引き千切った。
 私がいた。
 鳥のフンのような白と黒の入り混じった、爪の先ほどの私の幼虫が、狭い葉の裏で何匹も、身をよじり、蠢いていた。
その他
公開:22/04/30 21:00

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