すべる、“タツノオトシゴ”

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近所に住むお爺さんが、なにやら珍しい“タツノオトシゴ”を捕まえたらしい。
耳の遠いお爺さんが言うには、この“タツノオトシゴ”は何か喋るらしい。
水槽の中で元気よく泳いでいるが、喋る気配はない。
お爺さんにもかすかに聞こえるらしく、非常に甲高い声で何かしゃべっているという。
そこで、私は水槽に近づいて耳を澄ませて聞いてみる。
「あ、確かに何か喋っているね」
(オバタリアン)
(激おこぷんぷん丸)
(写メ)
(成田離婚)
・・・最近は聞かなくなったいわゆる“死語”を喋っている。
私の反応がいまいちだったらしく、“タツノオトシゴ”は申し訳なさそうに徐々に小さくなっていった。
翌日、タツノオトシゴは“タツノオト(龍野音)”となって、水槽から消えていったことをお爺さんから聞いた。
誰も未だに“龍野音”を聞いた者はいないという。
その時、私は“龍野音”を聞きたかったと正直思った。
ファンタジー
公開:22/05/03 06:00

ひまわり広場( 神奈川県川崎市 )

産婦人科専門医/指導医
@sanadakuma
tama-himawari3w.com
身体は日々の食事で出来ている。
妊婦さんにも食事の重要性について情報提供しています。
ダイエット中の方々にも食事・睡眠・運動の重要性について情報発信しています。
自身が「愛着障害」であることに気付き、もう一人の自分と上手に共生しています。
自分が、自分の『安全基地』になることが生きていくための拠り所なのかもしれない。
科学的な視点からの表現も交えて、ショートショートストーリーを作っています。

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