風信子の初音

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木枯らしが街を枯葉色に染める頃、旧友から届いた小包みには、ヒヤシンスの球根が一つ入っておりました。
ヒヤシンスを漢字では風信の子と書きます。風信とは風向き、あるいは風の便り。あの人らしい遊び心と、時節柄沈みがちな心が軽く浮きました。
何事も冗談に紛らす人ですから、花言葉の『遊戯』ともかけたのでしょう。折角なので鉢植えに仕立て、春を待つ事にいたしました。

街の装いが桜色から青葉色に変わる頃、遅咲きに開いた花は、五月の空の様な青でした。
色までは確かめず送ったのでしょう。やや皮肉な息をつき、陽当たりの良い窓辺に飾っておきました。
色ごとに意味の変わる中で、青いヒヤシンスの花言葉は『変わらぬ愛』です。長い長い付き合いの間、匂わせる事もなく齢を重ね、互いに白髪の爺婆になって。

むせ返る様な甘い香りから逃れようと、窓に背を向けた私の耳に、咳払いにも似た呼び鈴の音が一つ、ためらいがちに届きました。
青春
公開:22/05/02 14:35
月の音色 月の文学館 テーマ:風が運んできたもの

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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