クラス名簿

冗談のつもりだった。
クラス名簿の最後に渡部勝吉と書き込み、机と椅子を一つ追加する。架空の人物が本当にいるかのように見せかけた。
「渡辺はどうした？」
朝のHR。担任の一言に首を傾げる。
「保健室ですよ」
委員長、何を言っているんだ？
「そうか。風邪も流行っている。皆気をつけるように」
担任が教室から出て行き、いつもの日常が始まった。

渡辺について聞いてみた。
影が薄い子だよね。図書室でよく会うよ。昨日一緒に遊んだ。皆が皆、渡辺というクラスメイトを知っている。俺だけが渡辺を知らない。
「渡辺君、具合はもういいの？」
委員長の声に顔を上げる。あいつが渡辺…顔を見て思い出した。そうだ…渡辺だ。何で俺は今まで渡辺の事を忘れていたんだ？
渡辺は俺の方をポンと叩いた。
「よくも俺の名前を名簿から消してくれたな」
渡辺は悪戯っぽい笑みを浮かべるとクラス名簿から俺の名前を消した。
あれ？俺って誰だ？