シャッターを切れない

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対象の美しいと思う箇所へと焦点を当てなさい。
先生が、私に教えてくれたことだ。
教えの通りにすれば、それが自動的によい作品となる訳ではない。
それでも、先生の言葉は私の助けとなっている。

シャッターの指に力を入れたとき、私は先生の言葉を思い出す。
対象へと焦点を当てている箇所は本当に美しいのか。
美しいとして、今の構図でその美しさを表現できるのか。
現像した写真の仕上がりを思い描けているのか。
反芻して、私は確信を得て、シャッターを切る。
そうして、作品は出来上がる。

今も言葉を反芻している。
私は先生のポートレートを撮ろうとしている。
ほそい首筋と、柔らかな耳たぶにかけてをフォーカスしている。
だというのに、シャッターを切れない。
「ごめんなさい、焦点を当てる箇所が決まらなくて…」
先生は目を細めて私を見やる。見透かされたのだと思う。
私は、先生の美しさを独占したかった。
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公開:22/04/28 20:29
更新:22/04/28 23:20

ねむざらし

ねむてっいる、あざらしです。
ねむざらし。

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