影の街

2
3

 かつてこの国が滅ぼされそうになった時、王に協力したのは影たちだった。ゆらめく影は敵の首を捻じ切り、馬の腹を裂いた。敵の剣は虚しく空を切り、軍勢は追い散らされた。
 王は影の街を作った。巨大な壁に囲まれ昼なお暗き街に、灯火が地にいくつも影を描き、影の囁き、ざわめき、叫び、喧騒が絶えることなく街を行き交った。あなたはご存知ない、影がどれほど賑やかな音を立てるか!
 王の息子に街は滅ぼされた。息子は死後、棺の中で闇に包まれ死してなお悲鳴をあげたと聞く。人々は影を恐れたが、破壊された街は放置されたまま戻らなかった。
 今でも日が暮れたのち、街の遺跡を通りかかると、影が二重に映るという。影にかつての力はなく、ただ恨めしげに彼ら一族の物語を語り聞かせる。だがその悲しい物語はとうてい一晩で語り尽くせぬものではなく、日が昇ると語り終える前に消えてしまう。影の消えた後には、ただ濡れた露草が残るのみ。
ファンタジー
公開:22/04/23 20:47

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容