異世界転生

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 飯島が保健室で、女神と話してるのを偶然目撃した。ベッドの上に立つ女神の大きな翼と、彼女の話を真剣に聞く彼の横顔がカーテンの隙間から見えた。
 病気なんだ、と飯島は教えてくれた。僕は少しずつ死にかけてる。女神は予定外の僕の死を詫びて、少しずつ、僕の魂を異世界に送ることにしたんだって。
 そして一ヶ月経った。飯島は特に変わった様子もない。とっくに死んで異世界転生してるはずなのに、ずっと元気そうに見える。思い切って話しかけた。
 なんで知ってるの。
 何でって、飯島から聞いたんだよ。少しずつ死ぬとか異世界転生とか。
 話したけど。あれは前の世界の君に話したんだ、
 私はその晩、手首を切った。血は出なかった。真っ赤な切り傷から金色の、どろりとした液体が溢れてきた。舐めてみた。甘かった。この世界はいつの間にか別物になっていて、私の新しい傷痕からは、胸焼けするほど甘ったるい蜂蜜がとめどなく流れ出た。
その他
公開:22/04/19 20:00

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