カフェ・バレンティナ 前編

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平日の昼過ぎ、カフェ・バレンティナは、数組の老夫婦を迎えて静かに時を刻んでいた。
僕は、カウンター越しに、淹れたてのブレンドコーヒー二杯をアルバイトの女の子に渡す。
「三卓さんですね」
そう確認をしてコーヒー一式をトレーに乗せ、回れ右をした彼女を見送った。
その背中を眺めていると、つい、本来そこにいるはずだった彼女の──バレンティナのことを思い出してしまう。
僕が淹れるウインナーコーヒーが好きで、何よりも僕を愛してくれていた彼女を。
この小さなカフェも彼女の名前を冠したもので、開いてもうすぐ八年になる。
それは同時に、遠い国で大きな戦争が始まってからの年月も表していた。
遠い国はまさに彼女の祖国であり、家族のその元へ彼女が向かったのもまた八年前であった。
『私が三年で戻らなければ、三年で忘れなさい』
そう言った彼女の声を忘れないように繰り返し思い出していると、カランと店のドアベルが鳴った。
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公開:22/04/20 21:53

日笠山 水夫

日笠山 水夫(ひがさやま すいふ)と申します。
いろいろと初心者ですが、よろしくお願いいたします。
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Twitter: 日笠山 水夫 (@mariner_basil) / http://twitter.com/mariner_basil

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