淡雪は春の季語

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「あ、雪だ」
隣を歩く彼がぽつりと呟く。彼につられて私も上を向く。
どんよりとした曇り空から、ふわりと雪が舞い降りてきているのが見えた。
「季節外れね」
春の雪を目の前に、頭の中に浮かぶ俳句があった。
思わず、ぽっと口に出す。
「淡雪のうしろ明るき月夜かな」
「え、なにそれ」
「正岡子規の俳句」
「へぇ。流石文芸部は違うな。でも雪って冬の季語じゃねぇの。今春だぜ?」
「残念。淡雪は春の季語よ」
「まじか、文芸わかんね」
そう言って彼は頭上の月と淡雪を写真に収める。
そんな立派な一眼レフを持っているなら、季節にもこだわって撮影すれば良いのに。
「そうだ、今度、写真部で新入生のために作品展やるんだ」
「もしよかったら、なんだけど。俺と組んで、俳句をテーマに作品展示しねぇ?」
彼はファインダーを覗き込んだまま話す。
私は、アスファルトに落ちては積もらずに消えてゆく淡雪を見て、もう春か、と思った。
青春
公開:22/04/20 18:54
更新:22/04/20 21:05

一色

自己満足兼、備忘録的にショートショートを投稿します。Twitter(@issiki_1205)

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