坂のある街

私たちの街は坂が多い、というか坂道ばかり。それもすべて上り坂。例えば家を出て公園に行く。道はほぼ平坦にみえるが歩くうちに上っている。小高い丘の上の公園にたどり着いて振り返ると我が家を見下ろす。公園からコンビニに行けば、さらに上り坂。コンビニからみると公園と家はずっと下にみえる。コンビニで買い物をして帰る。見下ろしていたはずの公園はいつのまにか坂の上。公園からは家はさらに坂の上にある。上り坂を歩き続けてようやく家に帰る。
私たちの街では、歩くことは坂を上ることを意味する。住人はもう慣れたものの内心不満で穏やかではない。今日、知らない男がにこにこして坂を散歩していた。男は挨拶してくる。
「ここはいい街ですね」
「でも上り坂ばかりですよ」
「上り坂は足腰が丈夫になって健康にいいです。下り坂はいけません。膝を痛めます」
聞けば男は最近この街に越してきたらしい。下り坂の街から。