百鬼夜行

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 百鬼夜行を眺めるのが好きだった。とうに終電も過ぎたはずの夜更け、遠くから踏切の音が聞こえてくると、僕はそっと家を抜け、線路内を練り歩く妖怪たちを見物しに行った。
 見渡す限り、本で見た妖怪がいっぱいだった。終点の神社へ向かうのだろう。僕の存在を気にも留めず、賑やかに話し、気ままに歩く姿は楽しそうだった。
 最後に見たのは大学三年の春だった。僕は踏切脇で屈んで煙草を吸っていた。全身毛に覆われた首の長い妖怪と目が合った。
 坊主、お前も来るか?
 僕は迷った。迷いに驚いた。将来への漠然とした不安が、不思議な選択肢を、魅力的でリアルなものにした。どっちつかずで立ち上がる僕の後ろから、歓声を上げて小さな一つ目小僧が駆けだした。妖怪が声をかけたのは僕じゃなくその子だった。肩車された一つ目小僧が提灯を受け取る時、僕を一瞬だけ見た気がした。
 その時僕は、妖怪になるチャンスを、永遠に失ってしまった。
その他
公開:22/04/16 21:15

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