いざかや

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最近俺が越してきた町には、小さな商店街があった。
かの有名な世界最速の男が全力で走れば十秒もかからない程度の長さの商店街だ。
今日の俺は、その端っこにある『いざかや』とやらに一人で訪れていた。

「いらっしゃいませ」
店に入ると、若そうな面立ちの店主が凜とした声で出迎えてくれる。
やっぱりこういった第一印象は大切だよなぁ、と俺は心の中で頷く。
「ご注文は如何なさいましょう?」
「とりあえず、生一つ」
俺の申し出を聞いて、店主が怪訝そうな表情をする。
「申し訳ありません、お客様。当店ではお酒は扱ってないんですよ」
俺は思わず、えっ、と声を上げた。
続いて自然と抗議の言葉が口をついて出た。
「ここは『居酒屋』じゃないんですか?」
すると店主は納得したような顔で、
「あぁ、ここは『居酒屋』ではなくて『異酒屋』なんですよ。何しろ、私がまだ未成年でして」
と、首を傾げながら戯けて見せた。
ファンタジー
公開:22/04/18 20:25

一色

自己満足兼、備忘録的にショートショートを投稿します。Twitter(@issiki_1205)

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