戦地からの手紙

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 俺は戦場で、あいつと一緒だった。あいつからあんたの話をたくさん聞いた。手紙も見せてもらった。でもあいつは、返事を出せずにいた。戦場には書くべきものなんてないんだ。
 あいつが死んだのは、きっともうあんたの耳にも届いてるはずだ。ポケットにあんたへの手紙があった。宛先だけ書いてあって中身は白紙だった。
 宛名のあんたは恋人か、母親か家族か友人か、あいつが話してた誰かなんだろう。これはあんたに手紙を書こうとしてたってことだけが書いてある手紙だ。他に書いてあるのは、あんたの名前だけだ。だからそのまま送る。俺から説明することは何もない。この説明だって、あんたには伝えない。
 本当は、あんたなんて存在しなければいいと思ってるんだ。あいつを失ったあんたなんて。あんただって、俺がいない方がいいだろう。でもどうやったって、あいつがいたことは消せないし、なら俺たちだって、きっと、いなかったことにはならない。
その他
公開:22/04/18 18:03

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