夕暮れの均衡

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数百人はいるだろうか。ここは長野県にあるオピュチ川の堤防。ずらりと並んだ僧侶が釣り糸を垂れている。すべての僧侶が背中に同じストローを背負っているが、その多様な僧衣からさまざまな宗派の僧侶が混在しているのがわかる。
このあたりは太陽がゆっくり沈むことで知られた場所で、今は医療従事者だけに開放されている。私は病院で介護職に就いている85才の父に連れられて、ふたつある堤防の狭間、戦前は競馬場だったという河川敷に立った。鳥も風も川の流れも真空みたいな静寂にのまれていて、竹馬で駆け遊ぶ幼い妹の姿を父の目の中に見た。
雨の気配に振り向くと背後の堤防には縦笛の少年がずらりと並び、こちらに向けて小便をしている。僧侶たちがストローを川面に差し入れ水を吸いはじめると、父の目で遊んでいた妹が私の目に飛びこんできた。
「均衡か」
父はそうつぶやくと僧衣を纏い、私に縦笛を託した。
すべては美しい夕暮れを保つために。
公開:22/04/14 18:31
更新:22/04/14 19:52

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