見つめるその先に

幼い娘が部屋の隅をじっと見つめている。どうかしたんだろうか？と覗き見れば床に手のひら大の穴が空いていた。
「何これ！」と思わず悲鳴を上げてしまう私。が、改めて見てみるとそこに穴なんて存在していない。
見間違い？釈然としないが穴がない以上、確かめる術はない。
別の日、また娘が部屋の隅を見つめていた。穴だ。娘は穴にお菓子を入れている。
私は止めさせる為、娘に近付き…消えた穴に呆然とした。あの穴は一体何？
「あの穴はね、家の中でなくなったものが集まる場所なんだって」
娘が無邪気に言ってくる。それ、誰に教えてもらったの？
「穴の中にいた子！その子がね、これくれたの！」
娘が差し出してきたのはずっと昔、神隠しにあった姉が大事にしていた人形。それを見て、私は息を止めた。
「その子ね、穴からずっとママを見つめているって言っていたよ」
私を見つめる娘の瞳。その真っ黒な部分に幼き姉の姿が映り込んでいた。