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徴兵されていた兄が戦場から戻ってきた。
臆病な兄は敵を倒せず、逃げて隠れてばかりいたらしい。
それが功を奏して、兄だけが生き残った。兄だけが生きて帰って来た。
兄は足音を酷く怖がる。隠れていたばかりの兄は、敵に見つかるかもしれない恐怖が骨身に沁みついている。
そんな兄の面倒を僕は見ている。
僕は足が不自由で、車いすなしでは生活が出来ない。
車いすの音は足音と違うからと、兄も穏やかでいられる。
僕らは人里離れた場所で静かに暮らしていた。

雨が続く6月。兄が突然部屋に引きこもった。
「足音が…足音が聞こえる…」と何かに怯えるようになった。
まったく…兄にも困ったものだ。
僕は今日も兄が連れてきた何かの足跡を拭き取る。
ぴちゃぴちゃと足音がうるさい。
足音も足跡も雨脚が強くなればなるほどその数も増えて行くから非常に厄介だ。
このままでは僕も兄と同様に足音に対してノイローゼになってしまいそうだ。
ホラー
公開:22/04/15 21:00

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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