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「あなたに要人を宿泊させてあげる栄誉が与えられました」と市役所から連絡があって一週間ほど客を泊めることになった。要人とは何でも海外姉妹都市の有名な宗教家らしい。日本には布教のついでに立ち寄ったとのこと。市役所の押し付けに仕方なく空港に迎えにいった。到着ゲートから出てきたのは貧相な老人一人。砂漠の民みたいな布切れ一枚を巻いている。要人は日本語を話せるらしいがほぼ無言で万事控えめである。狭い家だが六畳の和室で寝起きしてもらう。私はほとんど会社に出勤しているので食事とお世話は妻に任せた。妻に様子を聞くと要人はほとんど和室にこもっている。そしてずっとテレビを見ているらしい。しかも音声を消して。要人に話をしてみた。
「住まいはご満足でしょうか?」
「はい」
「テレビはお気に入りですか?」
「はい」
「どうしてずっと音を消して見てるのですか?」
「光の束で眼が洗われます。音は駄目。耳が汚れます」
「住まいはご満足でしょうか?」
「はい」
「テレビはお気に入りですか?」
「はい」
「どうしてずっと音を消して見てるのですか?」
「光の束で眼が洗われます。音は駄目。耳が汚れます」
その他
公開:22/04/15 15:50
2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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