彼、ヒカラビータ

2
4

私は10歳の誕生日から10か月と4日、家業を継ぐための修行として庭に埋めたカマンベールの中で瞑想をしたことがある。それは冬眠のような心身発酵で、20歳になったときは20か月と8日、湖に沈めたモッツァレラの中でやはり瞑想をして過ごした。その間大学は休学したし、恋人とは連絡を絶った。
復学した昨日、彼と再会したとき、「俺と発酵とどっちが大事なんだよ」なんてつまらないことを言うから、「発酵に決まってんじゃん」と彼の鼻をつまんだら、彼の目はみるみると赤黒く染まり、剥き出しにした藍色のキバで私の首すじを噛み、ちゅるりと伸びた喉ストローで静脈から発酵血を吸いはじめた。私が護身用の信州味噌を彼の背中に塗ると、それで彼は呼吸が難しくなったようで、白目を剥いて「ちゅぱぺっつぁー」と叫び、干からびた男爵いもに姿を変えた。やっぱり彼もほかの男たちと同じように赤目吸血のキバ男爵いもだった。
あーあ。今日は休も。
公開:22/04/12 12:53

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容