セドリック

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「出町柳にセクシーなコピー機があるの」
寝言が面白いと評判のなめ子さんが眠る病室はまちで一番の観光スポット。休日には隣で眠るチケットを求めて行列ができる。チケットには「昼の少し」と「夜のぐっすり」があって夜の分は半年先まで完売らしい。
去年の春、僕はなめ子さんのファンだった母に夜のチケットを贈った。そのころ母は入退院を繰り返していた。回復を祈ったけれど病状は徐々に悪化して、予約した夜には危篤となり、なめ子さんの隣でぐっすりと臨終をむかえた。
一周忌。僕はなめ子さんの隣で眠ることにした。
「見て見てセドリックの後部座席にしめじが生えてる」
そんな寝言に母の笑顔を思い出す。
深夜、なめ子さんが心肺蘇生されている隣で目が覚めた僕は、主治医と家族の到着を待った。
「あーもう、盆と醤油が一緒にきた気分」
葬儀屋がなめ子さんを運ぶ隣で僕は最期の寝言を反芻している。
柔らかい春風がカーテンを揺らす朝。
公開:22/04/11 14:31

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