ニンゲンの種

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花市でぼくは声をかけられた。黒い頭巾のお婆さんに。
「いい種がある」
「何の種」
「ニンゲンの種」
「インゲン?」
「ニンゲン」
「ニンジン?」
「うんにゃニンゲン。すくすく育つよ」
手のひらにコイン三枚を見せるとお婆さんは種を売ってくれた。
家の庭にタネを撒いた。ママがどうしたのと聞く。「ぼく育てるんだ」と言った。三日後に芽が出ると期待したら出てきたのは小さな目と歯だった。数日後、茎が出てきた。ヒロシとマリが「何してるの?」と聞く。「ニンゲン育ててるんだ」と言った。「無理無理」とヒロシもマリも言った。
1ヶ月後、ぼくと同じ背丈になったニンゲンに毛が生えて鼻がついた。突起や孔ができて耳や手がニョキニョキ。「そろそろ食べごろね」ママが言う。ぼくは二、三本ニンゲンを抜いて市に持っていくとすぐに売れた。
雨季が過ぎるとニンゲンは次々に地面から生えてきた。その日からぼくはニンゲンを刈るのに忙しい。
その他
公開:22/04/13 15:14

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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