本の虫出版

12
8

大学の先輩がユニークな出版社に就職したというので、企業訪問させてもらった。
田舎の古民家をリノベーションした社屋の玄関で先輩が待っていた。
「ようこそ『本の虫出版』へ! 読書が大好きな俺のような社員が大勢いるから、この社名になったのは間違いじゃないけれど、本当に本の虫を育てているんだ。
この辺りは昔から養蚕が盛んで、この古民家でもカイコを飼っていたんだ。カイコの幼虫は蛹になるときに頑丈な繭をつくるんだけれど、その繭から取られた糸がシルクだ。そのやり方を真似て、本を紡ぎ出す本の虫を育てているってわけ。立派に育ったカイコが蛾になるように、本の幼虫も成長すると本になって書店へと羽ばたいていく。
蛾と同じ『走光性』という習性もあって。夜中に本の虫が書店の棚から抜け出し、街灯の光に集まってぐるぐる旋回する。そのとき本が傷んじゃったら売り物にならなくなる。書店から返本されてくるのには困ったもんだ」
その他
公開:22/04/09 07:22
出版社 本の虫 養蚕 カイコ 幼虫 書店 習性

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容