花筏の男

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 水底から水面を覆う花筏を見上げると、青紫色のだんだら模様に見える。吐息は泡となって水面の花弁を乱すので息は完全に止めておかなければならない。水を掻くような動作もご法度だ。重要なのは水を乱さない事。それでいて、浮上する速度やタイミングを調整しなければならない。この競技に挑む者は、この困難なスキルを身につけなければならないのである。
 水面へ到達する鼻、顎、唇、瞼、胸、骨盤、喉仏、踝、小指、肘、肩甲骨、耳、踵。この順番で身体に花びらを纏わりつかせる。とても緩やかなジャンプ。水面を覆う花びらを肉体に移しとる競技。
 私は小学生の頃から、この高飛び込みの真逆のような競技の期待の星だった。だが、思春期を迎えると水面の花弁に肌が触れる感覚に性的な衝動を禁じ得なくなって身体の部分の変化を抑止することが難しくなり、代表選考会で、鼻よりも先に屹立した部位を顕わにして追放されたのだ。
 でも、止められない。
その他
公開:22/04/07 21:01
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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