「妹の耳」

テーブルにはビーカー、メスシリンダーと小瓶が並んでいる。小瓶にはそれぞれ液体、樹脂のラベル。一枚のレシピに手順が書かれている。それに従って液体と樹脂を混ぜてアルコールランプで温める。混ぜる分量は自分で判断するしかない。
ビーカーに肌色のねっとりとした材料を作るとそれを持って次の部屋に入る。個室にやはりテーブルが一つ。白い紙が一枚。それには「妹の耳」とある。これが今回の課題だ。妹の耳。ビーカーから温かい樹脂を取り出す。手で丸くするとソフトボールの大きさ。これで妹の耳をどう作るか。耳は耳だ。妹がポイントだな。妹とは？一人っ子の俺は身近な女性の耳をあれこれ思いやり樹脂を捏ねる。テーブルにはヘラ、筆、絵具がある。リアリズムでいくか、シュールにするかそれともコンセプチャルで攻めるか。目の前には時計。一時間以内に仕上げて提出しなければならない。
➖➖某芸術大学大学院修士課程選考入試である。