扉が浮かんでいた

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 春の午後、全面ガラス張りのオフィスビルの24階の窓の外に、扉が浮かんでいた。あちこちから「扉」という声も聞こえてきた。
 非常用進入口に指定されている窓から思い切り身体を乗り出しても、ぎりぎりで届かないくらいの位置にあるドアノブは、真鍮製だろうか、何の変哲もない形だ。扉自体もごく普通で、ノブの上には鍵穴型の鍵穴があり、あるべき位置に覗き穴もある。
 上や下から扉を確認したり撮影したり、警備や消防が来たり、マスコミも騒ぎ始めたりする。夕焼けのビル街の中空で扉はシルエットとなり微動だにしない。明日、ドローン調査をすると警備から連絡が入った。
 翌朝、変化が二つあった。
 一つはドアノブにぶら下がっている人がいたこと。もう一つは、鍵穴に鍵が刺さっていたこと。

 いつか、あの扉を行き来する日がくるのかな?

 耳障りなドローンの音を聞きながら、わたしは消えてしまった表計算のやりなおしを始めた。
ファンタジー
公開:22/04/03 10:20

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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