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夜明け前に畑から家に戻ると佐太の姿はなく、囲炉裏端に書置きがあった。
「根本。お前が『田舎で農業をやる』と会を抜けてから4年。青果売場で『わたしが作りました』と大きなカブを鷲掴みしているタンクトップのお前の写真を見た俺は、矢も楯もたまらずカブを買い占め、それだけでは我慢できずに、ここへやってきてしまった。お前は『みんな俺の子さ』と屈託のない顔で畑を案内してくれた。
お前はちっとも変わってなかったんだな。
あの黒いラバーみたいなのはマルチっていうのか? 畝をぬめらかにぴっちりと覆ったあれ。あれが今のお前の相手なのかと思うと俺は悔しくなって……すまない。さっきまで俺は、お前の種付けを盗み見ていたんだ。月光をピチピチと弾くマルチの喘ぎ。もう我慢ならない。
根本。俺はお前のマルチのどこかに俯せて待つよ。昔みたいに、いや昔以上に励もう。待っている」
佐太! 俺は朝日に向かって激しく滾った。
「根本。お前が『田舎で農業をやる』と会を抜けてから4年。青果売場で『わたしが作りました』と大きなカブを鷲掴みしているタンクトップのお前の写真を見た俺は、矢も楯もたまらずカブを買い占め、それだけでは我慢できずに、ここへやってきてしまった。お前は『みんな俺の子さ』と屈託のない顔で畑を案内してくれた。
お前はちっとも変わってなかったんだな。
あの黒いラバーみたいなのはマルチっていうのか? 畝をぬめらかにぴっちりと覆ったあれ。あれが今のお前の相手なのかと思うと俺は悔しくなって……すまない。さっきまで俺は、お前の種付けを盗み見ていたんだ。月光をピチピチと弾くマルチの喘ぎ。もう我慢ならない。
根本。俺はお前のマルチのどこかに俯せて待つよ。昔みたいに、いや昔以上に励もう。待っている」
佐太! 俺は朝日に向かって激しく滾った。
その他
公開:22/04/05 20:58
シリーズ「の男」
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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