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「ちゃんと腹一杯で来たか」
飲食店にあるまじき挨拶で祖母の様な店主に迎えられた。
「ここはコレしか出さんぞな」お椀1つが載ったお盆を持ってくる。
胸は踊る。なんせ年に1日しか開店しない幻の店の予約が取れたのだから。
湯気が立ち昇るお椀。見た目も匂いも…味噌汁だ。「お母さんこれは?」
「うそしるだ」
「嘘…汁?」聞きたい事だらけだが店主はとっとと奥に消えた。
百聞は云々と呟きひと口すする。
美味しい。でも不思議な味。
すると人生で自分に対してつかれた嘘の記憶が次々蘇った。
口を付ける度忘れていた事まで次々呼び起こされ戸惑いが襲う。
そしてそれらがふるいに掛けられていくのだ。
涙が止まらなくなる。
「あの時アイツは俺を裏切った訳じゃなかったのか…」
箸袋に書かれた『方便屋』の文字。
嘘も方便…4月1日にしか開店しない店。そういうことか。
店主が笑顔で顔を出した。
「どうだ。うちの『嘘知る』は」
SF
公開:22/04/01 11:56
更新:22/04/02 17:31

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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