携帯のない時代のドキドキ

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 文具屋にある試し書きの紙の前で、俺は一人ドキドキしていた。
 なぜかと言えば、書かれている文字。名前が書いてあり、その横には好きとある。
 ありきたりな名前ならいざ知らず、なんとフルネームで書かれている。それは紛れもなく俺の名前で、そして俺を好きと……。
 待て、早まるな。喜ぶな。
 俺は周囲を見渡す。誰かが俺のこの姿を見て笑っているかもしれない。
 ……誰もいない。
 本当なのか。
 いやいや、待て待て。
 どうすれば良い。
 仮にこれが本当だとしても、喜ぼうにも素直に喜べないぞ。

 数分悩んだ末、俺はペンを取り、試し書きの紙にそれを走らせた。
 書き終えて少し笑う。
 果たして答えは返ってくるのか。むしろ読んでくれるのか。
 携帯もない時代のドキドキは、こうだったのかなあ。
 等と思いながら帰路につく。
 
 店員に見られて捨てられるだけと思い至るのは、もう寝る間際だった。
 
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公開:22/03/29 18:05

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