約束の時計台

10
5

「この時計台が青色に染まる時、ここで貴方を待っています。」
「必ず帰ります。」

それが、私が戦地に向かう前に彼女と交わした唯一の約束でした。
あれからもう四年が過ぎていました。
未だに約束を果たせずにいました。
彼女は待っているでしょうか、あの時計台の元で。
少し不安になります。
まだ少し時間がありますから、時計台の話でもしましょうか。
あれは少し変わった代物でした。
時間が流れると時計の盤面の色が変わるのです。
色は時間帯で決まっていて、遠くからでも大まかな時間が分かるようになっていました。
約束の青色は、夕方四時から八時の色です。
ちょうど時計台が見えました。
茜色に押しやられ縮んだ空の青を繋ぎ留めるようにして、青く時間を刻んでいます。
次の瞬間、私は走り出していました。
肘から先を失くした右腕も懸命に振って走ります。
息も絶え絶えですが、伝えねばなりません。
「今帰りました。」
その他
公開:22/03/24 15:23
更新:22/03/24 15:52
日笠山水夫 青色の約束 時計台 戦争 青色

日笠山 水夫

日笠山 水夫(ひがさやま すいふ)と申します。
いろいろと初心者ですが、よろしくお願いいたします。
どんなものでもコメントを頂けると、励みになります。

Twitter: 日笠山 水夫 (@mariner_basil) / http://twitter.com/mariner_basil

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容