皆既月食

駅に降りると歴史ある街並み。目的のホテルは和風建築を改装した老舗旅館といった面影。チェックインする。
三階の部屋でソファに腰を下ろすと部屋番号をメールで送る。窓外の街並みは静かだ。
彼女と会ったのは偶然だった。仕事先で彼女をみて驚いた。この会社に転職していたとは。懐かしさのあまり打ち合わせのあと二人で喫茶店で話をした。彼女と別れたのは十年前。すれ違いの苦い日々を忘れたように互いの近況を話した。また逢いたいと言うと彼女は首を縦に振った。
出張の帰途、ここに泊まることを思いついた。そして彼女に連絡した。彼女も来るとの返事。
暗くなった通りにざわざわと人の気配。今夜は月食だとさっきロビーで聞いた。ホテルを出てみる。みんな月を見上げている。寒くなって部屋に入った。部屋からも黒く赤い月は見えた。
妻には出張が一日伸びたと言っておいた。彼女からまだ連絡はない。やはり難しいのかも。ダブル不倫だからなあ。