地獄総選挙

地獄は異様な熱気で賑わっていた。
「次の閻魔様、誰になるかな？」
「なにせ地獄創設以来初めてだからなあ」
鬼たちは亡者達を金棒で小突き回しながら次期閻魔大王の予想に夢中になっていた。
かつて世襲制だった閻魔大王選びは、鬼たちから不平等だという声が大きくなり選挙制を取り入れた。
「血の池プールはあまりに危険だ、足場が悪く従事する鬼の安全が確保されていない、改修工事が必要だ」
「針の山こそ問題だ、亡者たちを突き落とす鬼がPTSDになり苦しんでいる、心のケアを優先しないと」
閻魔大王になるため名乗りをあげた鬼は公約を熱心に訴える。

一方、極楽にいる天人は気が気でなかった。
穏健派が就任すれば、小悪党程度の罪人は地獄行きにはならずに極楽へ行ってしまう、そうなれば極楽の治安が悪くなることは必至だからだ。
天人は下界を恨めしそうに見下ろした。
「人間よ、頼むから娑婆の罪は娑婆で償ってきておくれ」