数ミリ秒間

まっすぐな高速道路を走っていた。路上に横たわる何か。大きなブルーシートか。近づくとふわりと浮いて風にのって向かってくる。陽光に反射したシートの光沢が煌めいたかと思うとそれはフロントガラスを覆った。
何秒か、いや数ミリ秒の間。
細かな振動とともに微細な泡がたくさん絡みあい表面のあちこちで剥離する。こすれあう欲望と渇望。金魚鉢の金魚が後ずさりする。空に伸びたポールの先端にカラスが止まる。ぐっと飲むビールの泡がキナ臭い。金魚が静止する。
それだけの連想が一挙に脳内に押し寄せて次の瞬間にフロントガラスを覆ったシートは飛び去って再びまっすぐな道路。
路面に矢印。矢印の上にゴム手袋が片方だけ落ちている。踏まないようによけて走る。ゴム手袋は手のひらを上にしていた。
運転席のブラインドを下げて陽射しをよける。ルームミラーに後方の車が小さく見えた。車窓から誰かが手を出して手袋をびらびらと振っている。