構造体

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 実家のお風呂は気持ちいい。広くて綺麗で、隣家も気にせず窓を全開にできる。風に煽られ雪が吹き込んでくる。
 半分広げたお風呂の蓋、迷い込んだ粉雪がその上で仲間を待っている。溶けてしまう前に運良く他のかけらと出会えた雪が、結晶同士、端と端をくっ付けあう。表面に付着したわずかな水分による毛管接着が起こって、結晶が先端だけでいくつも連なり、立体的な構造へ、少しずつ発展していく。指先ほどの、魔法の城だ。風が吹き付ける。急速に冷やされた湯気が凍って、蓋の上で大輪の幾何学模様を一瞬、形作る。頂点のみで結合していた雪片が震え、構造体全体が大きく身をよじる。崩れると思った瞬間、ほどけた結晶の別の頂点が結合しあい、構造体は全く別の立体に変化する。
 こんなにささやかで、繊細で、複雑な構造体は、きっと誰かが観測するだけで崩壊してしまう。だからこれを見ている僕は、今だけ、この世界のどこにもいないのかもしれない。
その他
公開:22/03/22 19:00

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