森のオルゴール

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「間に合ってよかった。」
俺はオルゴールを手にその人のベッドに駆け寄った。
「ついにできたんですね。」
「ああ、ようやくだ。」
君と離れる時までに、君が心から癒される音色を届ける。
そう約束した俺は、やっとの思いで納得する物を作り上げた。
二言三言交わした後、震える指でネジを回す。
ゆっくりと、そしてしっかりと。
小箱が奏で始めた音色は、木々のざわめきと川のせせらぎのようで。
「ありがとう、ございます。」
震える声で言ったその人は、白い指でそっとオルゴールをすくいあげ、胸に抱いた。
「大切に、します。あなたとの最後の想い出。」
俺は、もうその人の顔を見ることができなかった。
でも、喜んでくれたことだけはよく分かった。
俺はそれだけで救われた気がした。
「無理だけはしないでって言ったのに。」
私は布団の上で静かになった彼の鳴き声を、オルゴールの音色の中に確かに聞いた。
ファンタジー
公開:22/04/11 18:00

ハル・レグローブ( 福岡市 )

趣味で昔から物書きをのんびりやってます。
過去に書いたもの、新しく紡ぐ言葉、沢山の言の葉を残していければと思います。
音泉で配信されているインターネットラジオ「月の音色 」の大ファンです。

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