お祓い

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 幽霊を祓う仕事は、多くの保守作業と同じく、交通量の落ち着いた深夜に行われる。整備局の黄色い自動車を私と相方で運転して回る単調な仕事だ。
 杭とテープで囲まれた道路脇にブラックライトを当てると、もやが人の形を取る。街路樹に衝突して死亡した者の霊は、木が伐採されるまで、内側に存在したまま忘れられがちだ。切り株上の若い男は、無表情で血を流している。なぜ死んだのか、何のために死ねないのか、当人ですら覚えてないだろう。そのような存在を祓うためには目的を与えればいい。単なる気散じのような、無害な目的を。
 私はポケットからハンドスピナーを取り出して回し始める。勢いよく回転し妖しく光る物体を、もやの中にそっと差し入れる。不思議な道具を手にした男は、しばらく考え込んでいたようだったが、それがまったく無意味であることに気づくと笑みを浮かべる。
 数十年ぶりに緩んだ彼の口元から、血がどっと溢れ出した。
その他
公開:22/03/19 19:15

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