ヘッドフォン

8
3

あのおじさんは、いつもこの公園でヘッドフォンをつけている。一体何を聞いているのか。音楽好きな俺は、興味本位でおじさんに声をかけた。

「あの、いつもこの公園で何を聞いてるんですか?」
「妻の歌声を録音したものです」

おじさんの奥さんは、病気で亡くなったらしい。奥さんは歌が大好きな明るい人で、いつも歌っていたらしい。

「この歌はね。亡くなる少し前に病室で録音したものなんですよ。よくこの公園を一緒に散歩しました」
「なるほど。楽しい日々だったんですね」

そしておじさんは、再びヘッドフォンを耳に当てた。するとおじさんが涙を流した。

「ど、どうしたんですか?」
「今、妻の声が……。喋ったんです」

俺はヘッドフォンの片方を耳に当てた。

――あなた。聞こえる?
いつも歌を聞いてくれてありがとう。
私は、いつもあなたを見守ってるわ。
だからどうか長生きしてね。

それは奇跡の瞬間だった。
公開:22/03/19 10:05

富本アキユ( 日本 )

カクヨムにも小説を投稿してます。
Twitterは@book_Akiyu

・SSG投稿作品1500作品突破

・作詞を担当
https://youtu.be/OtczLkK6-8c

・葉月のりこ様YouTubeチャンネル『ショートショート朗読ボックス』~ショートショートガーデンより~の動画内で江頭楓様より『睡眠旅人』を朗読して頂きました。

https://youtu.be/frouU2nCPYI

・魔法のiらんど大賞2021小説大賞。大人恋愛部門「彼女の作り方」が予選通過

〇サウンドノベルゲーム版作品(無料プレイ可)

ブラウン・シュガー
https://novelchan.novelsphere.jp/38739/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容