寿司屋の涙

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近所に「すし政」という“こはだ”が美味い寿司屋がある。
私は二週間に一回は通っている常連客の一人だ。
通うというよりは主人の政さんから連絡が来る。
いつも旬の魚を握ってくれる。そしてこはだも必ず握ってくれる。
「政さん、今日のこはだも美味しいよね。」
「どうも。次、何握ろうか?」
私は何故、政さんに気に入られているのかわからない。
家族では、「すし政」には一度も一緒に行ったことは無い。
両親は私が「すし政」に度々訪れている事は知っているが、何も言わない。

私の小学校、中学校、高校の卒業式にも、政さんは出席してくれて遠くから涙を流して喜んでいるのを覚えている。
社会人になった私は、何となく面影が政さんに似てきていることが気にはなっていた。
気のせいかもしれない。

「政さん、今日の山葵、とびきり辛いね。」
わたしは涙を浮かべながら、こはだをほうばっていた。
ファンタジー
公開:22/03/20 07:00

ひまわり広場( 神奈川県川崎市 )

産婦人科専門医/指導医
@sanadakuma
tama-himawari3w.com
身体は日々の食事で出来ている。
妊婦さんにも食事の重要性について情報提供しています。
ダイエット中の方々にも食事・睡眠・運動の重要性について情報発信しています。
自身が「愛着障害」であることに気付き、もう一人の自分と上手に共生しています。
自分が、自分の『安全基地』になることが生きていくための拠り所なのかもしれない。
科学的な視点からの表現も交えて、ショートショートストーリーを作っています。

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