移住問題

乗客もまばらな二両の列車が雪深い駅に停車した。「吉永小百合」駅。列車を降りると無人改札口。この地方は地名が人名を呈している。理由はわからないが私はそれを調査しに来たわけではない。自然に恵まれた鄙びた町を移住先候補として訪れたのである。シャッターが閉まっている駅前通りに「加山雄三商店街」の看板。聞いていた通り商店街を抜けて役所に向かう。「高倉健公園」の前に木造三階の役所。受付で用件をいうと部屋に通される。中年の男性が出てきて名刺を出す。「長良川八丈島」。私は移住の説明を聞いた。補助金が出る上に家賃も光熱費も自治体負担。物価は安く自然は豊かだと長良川さんが力説する。
「一つ条件があります」
「はい？」
「ここでは人名は地名です。住民票を移すには地名に改名が必須です」
「例えば？」
「これはどうでしょう」と書いてきた紙を出した。
『八ヶ岳北海道』
私は紙を見ながら移住しようかどうか考えていた。