奴隷商人

1
2

 奴隷商人は目覚めると、壮年の男である自らを鏡で眺めてから広間へ向かう。
 奴隷を培養する巨大な壺が見渡す限り並ぶ。天井から垂れ下がる銀糸が壺同士を繋ぐ。奴隷たちは胎児の頃から、記憶と思考を銀糸で共有している。奴隷商人が壺を見繕い叩き割る。薬液がまどろむ奴隷をどっと押し流す。
 奴隷たちは姿こそ様々だが全員同じ人格、奴隷商人自身と全く同じ魂だ。奴隷商人の売り物は自分自身なのだ。
 全員でくじを引く。当たりは幼い女の子だ。今日の商人役、新しい奴隷を仕込む役、明朝、奴隷を起こす役だ。己を目覚めさせた奴隷商人から引き継いだ鞭で、さっそく彼女は彼を打つ。
 奴隷商人は自らを売り莫大な富を得る。財産は全員のものだ。魂を共有する以上、誰も特別な者はいない。抽象的な集団の総体こそ、奴隷商人の本性だ。だから市場で売り飛ばされるその時も、奴隷商人たちは皆、己の財宝に酔った笑みを、決して絶やしはしないだろう。
その他
公開:22/03/16 20:00
更新:22/03/15 03:24

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容