シンキングバード・クロック

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昔、皇帝を魅了した伝説の置時計、シンギングバード・クロックがあった。これは、からくり仕掛けで、豪華な装飾を施した鳥籠の中に、多彩なメロディーを奏でる鳥を演出していた。これらの鳥の大半はカナリアで、そこから「ラ・セリネット(鳥風琴)」と名付けられた。
本物の鳥の鳴き声より美しかったシンギングバード・クロックは権威の象徴となり、皇帝の贈呈品としても重宝され「囀ずる宝石」と呼ばれた。
皇帝たちが戦争を繰り返すと、故障でもないのにシンギングバード・クロックは奏でなくなった。籠の中の鳥は鳴くことをやめ寡黙になり、まるで平和を祈っているようだった。
考え込む鳥に見えたことで「シンキングバード・クロック」と呼ばれるようになり、戦争の混乱の中で行方不明になった。
その後の産業革命で、何らかの危険が迫っていることを知らせる「炭鉱のカナリア」という言葉も誕生した。
そして今、姿を消したカナリアが地上に現れる。
その他
公開:22/03/13 07:35
更新:22/03/13 07:53
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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