現代の遣唐使

前の職場に阿部さんという同僚がいた。将来の幹部候補が集まる経営企画部にあって彼の存在は少し浮いていた。実際、誰もが彼をナカマロと呼ぶのだ。
「どうしてナカマロって呼ばれているんですか」とある日、部長に尋ねてみた。
「遣唐使にさ、阿倍仲麻呂っていただろ。苗字が阿部で同じだからだよ」
「でも阿部さんなんて社内にほかにもたくさんいるのにどうしてあの人だけそんなあだ名が。。。」
そう食い下がってみたところ、部長は人差し指を口の前で立て、しーっと言った。
「彼は社費留学生としてアメリカの一流大学でMBAを取ったんだ。その意味では確かに現代の遣唐使みたいなもんだよ。でもな、社内での評価は芳しくない。なぜかわかるか。いつも検討しますって言う割に最後までやり切らないからだ。だから裏では"検討士"とも言われてる。一応修士持ちだしな」
そんな陰口を叩かれるなんて、社費留学生は帰国後も決して楽ではないようだ。