トイレットレジュメペーパー

1
2

彼は、「申し訳ないのですが」と言いながらトイレットペーパーを渡してきた。
「これ、履歴書?」
「はい!紙を忘れてしまったので急遽これに」
ぐちゃぐちゃに巻き直されたトイレットペーパーを受け取ると、油性ペンで書かれた文字が透けて見えてきた。なんか変だぞ。

「え?縦書き?」
「はい!ここにも書いてあるんですけど、高校のとき書道部でして」
長辺を縦軸に、横幅ぎりぎりまで書かれた文字。どうやら、氏名や住所、学歴をすべて一行で収めたらしい。山、本、太、一、と一文字ずつ追っていき、履歴書を読み進めた。

「店長、コーヒー持ってきました」
50メートルほど読んだところで、バイトリーダーがコーヒーを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
彼は席を立ち、コーヒーを受け取った。しかし、手を滑らせコップを逆さまにした。
「僕の履歴書が〜」
汚れた私の服よりも、溶け出す履歴書に嘆く彼を、店から追い出した。
その他
公開:22/03/11 14:26
初投稿

お湯タマゴ

生卵でも茹卵でもない、お湯タマゴです。
2回読みたくなる話や、オチに一捻りある話を好んで書きます。
note(https://note.com/oyu_tamago)で修行中。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容