オルフェウスとオルゴールと
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オランダ語でオルヘルと読むのだと、教えてくれた人でした。
「ギリシャ神話の竪琴弾きみたい。それが由来かしら」
「オルフェウス? なるほど面白い、フライトが終わったら調べてみよう」
そう言って屈託なく笑った顔が、私が彼を見た最後になりました。
墜落現場に残された痕跡は、焦げたゼンマイ一つでした。
他の部品は亡骸と共に鎔けてしまったのでしょう。機長席で彼の聴いたであろう曲は、永久の謎となりました。
冷たく煤けたゼンマイを懐に帰宅し、二度と主の戻らぬ部屋を片付けながら、窓辺に置かれた、これも随分昔に家主をなくしたらしき、空の鳥籠を眺めていました。
妻を冥界から連れ戻す為、竪琴を奏でたオルフェウスの様に、今一度声が聞けたなら。古びた扉へゼンマイを挿しツマミを捻りました。
チチ、と囀る様に扉が軋み、籠の格子を鳥影が横切った気がしたのです。
思わず見返った窓の外、銀の機体が遠く雲間に消えました。
「ギリシャ神話の竪琴弾きみたい。それが由来かしら」
「オルフェウス? なるほど面白い、フライトが終わったら調べてみよう」
そう言って屈託なく笑った顔が、私が彼を見た最後になりました。
墜落現場に残された痕跡は、焦げたゼンマイ一つでした。
他の部品は亡骸と共に鎔けてしまったのでしょう。機長席で彼の聴いたであろう曲は、永久の謎となりました。
冷たく煤けたゼンマイを懐に帰宅し、二度と主の戻らぬ部屋を片付けながら、窓辺に置かれた、これも随分昔に家主をなくしたらしき、空の鳥籠を眺めていました。
妻を冥界から連れ戻す為、竪琴を奏でたオルフェウスの様に、今一度声が聞けたなら。古びた扉へゼンマイを挿しツマミを捻りました。
チチ、と囀る様に扉が軋み、籠の格子を鳥影が横切った気がしたのです。
思わず見返った窓の外、銀の機体が遠く雲間に消えました。
ファンタジー
公開:22/03/07 17:26
月の音色
月の文学館
テーマ:オルゴールと小鳥
創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞
いつも本当にありがとうございます!
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