歌を忘れた鳥鳴琴

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物置から発掘したオルゴールを聴こうと、久方ぶりにゼンマイを巻いたが、これがうんともすんとも鳴らない。
長年の間に、中の部品が壊れたか錆びたかしたのだろうが、思い入れのある品で捨てるに忍びない。修理出来ぬものかと箱の蓋を開けると、明るい黄色の羽をした小鳥が一羽、自信なさげに頭を傾げていた。
そう言えば、このオルゴールの曲は『カナリヤ』だ。きっとあまりに構ってやらないものだから、こやつも自分の鳴らし方を忘れてしまったに違いない。

確か、歌詞の終いに戻す方法があったはず。古い記憶を辿りつつ口ずさみ、どうにか歌の通りに支度を整えて、三日月笑う夜の海へ連れて行った。
波に浮かべたオルゴールは月光が引いた道を沖へと漕ぎ出し、小さな影が光に溶ける刹那、ピイと一声鳴いて空へ羽ばたいたのだった。

そうか、ずっと持ち主の所へ帰りたかったのだな。下手な口笛で見送りながら、胸の内の懐かしい面影に手を合わせた。
ファンタジー
公開:22/03/07 17:24
月の音色 月の文学館 テーマ:オルゴールと小鳥 オルゴール/自鳴琴 朗読採用いただきました。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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