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閉館後の美術館。易々と警備システムを破り、私はひとつの絵画の前に立っている。作品名「カオス〈混沌〉」
男が頭を抱えている。その横で女が高笑いをしている。そういう絵だった。私は思った、まさに混沌。ああ、そうか。なるほどと思う。これは作者の実体験なのだ。だから、こんなにも心に訴えかけるものがあるんだ。私は絵に手を掛ける。防犯ブザーが鳴る。早く逃げなければ捕まる。しかし私はその場から動けなかった。いや、動くことを放棄していた。警備員に取り押さえられる。
警備員「おい、お前。何してる?」
私「えっ?」
警備員「この絵を盗みに来たのだな?」
私「はい。そうです。」
警備員「いやに正直だな。それに何で逃げようとしない。」
私「なんででしょうね~。この絵に触れた途端、盗む気も逃げる気も、何もかもが、どうでもよくなってしまったんです。」
警備員「何て事だ。」
私「はぁ?」
警備員「皆、同じことを言う。」
ミステリー・推理
公開:22/07/18 15:18

ソフトサラダ( 埼玉 )

時折、頭をかすめる妄想のカケラを集めて、少しずつ短いお話を書いています。コメントは励みになります。

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